(廣吉直樹 北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門 資源循環工学分野 教授)
本会は1943(昭和18)年に創立された80年以上の長い歴史を持つ学会です。本会は同年に開催された「浮選剤に関する研究会」を契機として,翌1944(昭和19)年に浮選剤研究隣組(全日本科学技術団体連合会の支援による)となり,以降「浮選研究会」,「資源処理学会」と名称変更し,さらに2003(平成15)年6月に現行の「環境資源工学会」と改名し,2019(平成31)年1月には一般社団法人に移行して現在に至っています。時代の移り変わりとともに名称や組織体制を変更してきましたが,創立以来一貫して分離・選別技術を大きな主題として,その進化・開発により金属を始めとする種々の資源の有効利用を促すという目的意識を持ち続けてきました。また,近年は,資源の生産・消費の拡大に伴って生じる環境問題を解決するため,環境負荷低減技術や環境修復技術などの開発にも積極的に取り組んできました。これら取り組みは,具体的には,学会誌「環境資源工学」の発行,学術講演会の開催(全国開催),シンポジウムの開催(東京開催)および国際会議の共同開催などを通して行われており,会員の皆様の情報交換の場として機能するとともに,本会の趣旨にご賛同いただく会員外の皆様に最新の情報を提供し啓蒙する役割を担ってきました。

本会は,大学,公設研究機関の他,鉄鋼,非鉄金属,土木建設機械,セラミック,セメント,各種廃棄物処理などの企業に所属する多く会員の皆さまから構成されています。学術研究のみに軸足を置いた他の学会と異なり,産業界の会員の皆様が活動の中核を担われてきた歴史があり,産・官・学が一体となって活動を展開してきました。このことから,本会は,関連する各種産業分野で求められているニーズに直結する情報を,時代に即して,いち早く提供することが最も重要な使命と考えています。

私自身は,大学に身を置きながら資源工学に関する研究・教育を行ってきており,天然の鉱物資源および廃棄物からの有価物の生産・回収の双方に必要な化学的な分離・精製技術と物理的な選別技術の開発に30年近く携わってきました。この経験の中で,本会の最も重要な主題である資源循環の問題は,国境を越えた物質の移動を伴うものであり,決してひとつの国の中で完結するものではないことを痛感しております。特に人口密度の高く,近年の経済成長が著しいアジア圏では,世界の他の地域と比べて,廃棄物量の増加に伴う環境問題と資源循環の問題が非常に密接にリンクしており,取り組むべき課題は年を追うごとに刻々と変化してきております。本会は歴史的に海外で事業展開をしている非鉄金属をはじめとする資源産業と深い係わりがあり,資源の問題に国際的な視点から取り組んできた長い伝統があります。本会では,このような特徴を生かして,資源循環に関する国際的な取り組みに関する最新情報を交換・提供する場としての機能を積極的に果たしていきたいと考えています。また,国際的な視点の下で,我が国の特徴を最大限に生かした資源循環の技術・システムを開発していくための学術上の拠り所となることを目指したいと考えています。少子化・人口減少の局面を迎えた今日の日本では,将来を見据えた専門家の育成も重要な課題です。本会では,若い技術者,研究者の集いである「若手の会」などを中心に,学術講演会などの機会に合わせて情報提供,情報交換の場を設けています。このような活動を通して,資源・環境問題に精通した次世代の人材の育成に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

設立以来,関西を中心とした大学,企業の会員が中心となって任意団体として運営してきた本会ですが,平成28年1月からは学会本部を東京に移し,平成31年1月4日には一般社団法人に移行いたしました。これを機に,これまで以上に大きな社会的な責任と使命を持つことになり,全国の幅広い研究分野・産業にまたがる会員の皆様とともに資源,エネルギー,環境分野のさらなる発展のために活動していきたいと考えています。会員の皆様には,『一般社団法人 環境資源工学会』の活動が,将来にわたって有益なものとなるよう,なお一層の応援とご協力のほど,よろしくお願いいたします。また,これまで以上に,多くの方々に参加していただき,本会を資源・環境問題に関わる最新技術情報や学術的知見の収集・交換の場として発展させ,社会に貢献していきたいと考えております。

最後に本会の目的を改めて確認するために「一般社団法人環境資源工学会定款第3条」を示して,会長の挨拶とさせていただきます。
(目的)
第3条 本会は,資源の処理・精製・リサイクル,環境の保全・浄化,新エネルギー開発などの資源・環境・エネルギーに関する学術ならびに技術の進歩を図り,学術文化と関連諸産業の発展に寄与することをもって,社会に貢献することを目的とし,その目的に資するため,次の事業を行う。
⑴ 会誌「環境資源工学」の発行
⑵ 学術講演会及びシンポジウムの開催
⑶ 調査,研究の実施及び資料・図書の発刊
⑷ 関連学術・技術団体との連絡と協力
⑸ 国際的な研究協力の推進
⑹ 前各号に掲げる事業に附帯又は関連する事業
⑺ その他本会の目的を達成するために必要な事業

(2020年6月)